側に居てもいいですか?

はじまりはそんな感じ・・・


++ 同居忍 3 ++



「どうしますか?」

「・・どう、しましょう?」

「早く決めないと、どんどん時間無くなっちゃいますよ?」

「そんなにしつこく言われなくたって分かってますよ!」

「分かってるならいいですよ。それで? どうするんですか?」

「どう、しましょう・・?」

先程から延々と繰り返し続いているこの会話。
きちんと正座した男二人が向かい合ってこんな会話とも言えない会話を繰り広げている。
そんな事をしている間にかれこれ小一時間は経っただろうか?
足が痺れたりしないのはさすがは忍と言ったところか・・

「んー、俺は別に一緒でも良いですよー」

間延びした声に、イルカはキッと眉間に皺を寄せてカカシを睨みつける。

「俺は嫌です!!」




ひょんな事から同居することになった二人の初めての・・・
もとい。
2日目の夜。
朝と同じく普通に夕食を取りまったりとした夜の一時を過ごした後、問題が起きた。

寝る場所の問題・・

イルカの家にはベットが一つしかないのだ。
ナルトや同僚がちょこちょこ泊まりに来てたりしたから布団に困ったりはしていない。
問題なのはどっちがどっちで寝るか、と言うことだった。

ナルトや同僚ならばベッド脇の床に布団を敷いてそこで寝ろとも言えるのだが、相手は腐っても上忍。
カカシであっても一応上忍。
そして、自分はしがない内勤の中忍だ・・・
上官である上忍のカカシに煎餅布団では無く、ベットを譲るのが普通の考え方だろう。
イルカだって1泊2泊ならば、カカシであろうと進んでそうしただろう。
だが、これからずっとと言うことは無いにしてもしばらくは一緒に暮らしそうな勢いのこの人にそれを譲るのはちょっと気が引ける。
だってここは自分の家だし、この人は居候。
家主である自分の方が優遇されるのが当然の事ではないか。
そうだ、自分の考えはごく当たり前のことをじゃないか。

ガッツポーズをしそうな勢いのイルカはヨシ!とカカシの方へと向き直った。
目の前のカカシはちょこんと正座したまま、眠そうにあくびをしていた。

「カカシ先生!」

「・・やっと決まりましたか?」

「はい。俺はベットで寝ます。カカシ先生は布団で寝てください。これで良いですよね!」

力強くそうまくしたてたイルカからは「どうだ!」とでも言いたげな感じが伝わってくる。
カカシは「はぁ」と小さな溜息を一つついて口を開く。

「・・ヤですよ」

「え? 何で? どうしてですか!?」

自分の常識的な考えにまさか異を唱えてくるとは思っていなかったイルカはうろたえる。

「何でって、そりゃもう決まってるでしょ?」

「・・・あなたは上忍で俺は中忍。上官であるあなたにちゃんとした寝床を譲らなきゃいけないって事ですか?」

イルカの声がだんだん小さくしぼんでいく。
身分の差はあってもそんな事はおくびにも出さないこの馴れ馴れしい上忍が、内心では自分を目下の者として見ていた事が悲しかった。

「でも、ここは里内で、しかも俺の家・・・」

消え入りそうなイルカの声。

「はぁ?そんな事は関係無いですよ」

「え?」

「だあから、そんな事は全く関係無いですよ。あんたの事だ、どうせ変な事を考えてたんでしょ? 何考えてたかは良く分かんないけど、余計な心配をする必要は無いですよ。と言うか、むしろ無駄な事ですかねー」

「無駄って・・・!」

真剣に悩んでいた自分をバカにする様な軽い口調のカカシに、イルカの眉間にはだんだんと皺が寄っていく。
もうこうなったら一緒に暮らすとかそう言うのはもう関係ない。
と言うよりもそもそも一緒に暮らすことを正式に承諾したわけではないはずだ。
ダメではないとは言ったが良いとは言ってない。

よし!

瞬く間にそんな結論に至ったイルカは密かに気合いを入れた。

「カカシせ・・・」

イルカが口を開こうとしたのと同時にカカシの間延びした声が重なった。

「だあって、床で寝たらベッドの上のイルカ先生の寝顔って見れないじゃないですかー」

「はあ!?」

意外な返答にイルカの声が裏返る。
それもそうだろう。
先程まで実力の違いや身分違い、考え方の違いからカカシとは合わないのかもしれないと悩んでいたのだから・・。
まあ、ある意味考え方の違いというのは当てはまっているのかもしれない。
まさか嫌だと言った理由が寝顔が見れないからだとはイルカには考えつくまい。
いや、カカシ以外誰がそんな事を考えるだろうか・・。

「・・・」

世の中の常識だとか人としてのごくまっとうな考えとか、そんな考えがイルカの頭の中をぐるぐる回っていた。
どう返答したらいいものか・・。

「もしも〜し。イルカ先生?」

固まってしまい、目の焦点が合ってないイルカの目の前でカカシがひらひら手を振る。
いっこうに反応の無いイルカを余所にカカシはいそいそとベットに向かい、お世辞にもふかふかとは言えない布団に潜り込もうとする。

「ま、そゆことで俺はこっちで寝ますね。なんならイルカ先生も一緒に寝ますか?あったかくていいですよ〜」

その一言でイルカは現実へと舞い戻ってきた。

「却下ーーーーーーー!!」

部屋の空気がびりびりと振動し、さすがの上忍も思わず耳をふさぐ。
はぁはぁと肩で息をしているイルカはベットからカカシを勢いよく引き剥がした。
眉間に皺を寄せながらころんと床に転がったカカシを見下ろす。

「何そんな勝手な事言ってるんですか!そんな言い分は聞けません!俺がベットで寝ますから、あなたは床で寝なさい!」

そうまくし立てバフンとベットに入り、あとはもう何も聞く耳は持たないぞとでも言うように頭まで深く布団を被った。

「え、イルカ先生。布団は・・? 床にそのまま寝るの?」

ベットの脇で布団の裾をちょいちょいと引っ張りながらか細い声ですがりつく上忍。
そんな状態を余所にイルカはもうこの人には振り回されないぞと心に決めて目を閉じると朝から騒がしかった一日で疲れていたのか、すぐさま深い眠りにつく。
ごそごそと何かが潜り込んできたことにも気付かずに・・・





翌朝。
いつものように朝早く目が覚めたイルカは、横ですーすーと気持ち良さげに寝息を立てていた上忍をおもいっきり蹴り落とした。


ようやく1日経った様だ・・ [2004.?.?]