側に居てもいいですか?

はじまりはそんな感じ・・・


++ 同居忍 4 ++



――はぁ・・・

雨は嫌いだ。

目を向けた窓の外ではシトシトと雨が降り続いていた。
雨自体は恵みの雨と言われたりと生活していく上で重要なもの。
雨が降らなかったりしたらこの山地に囲まれ、近くに大きな水源の無い木の葉の里にとっては死活問題となってしまう。
それに自分自身もそんなに雨が嫌いだという事は無かった。
むしろ好きだったかもしれない。
子供の頃は親に叱られるのも構わず、雨の中を駆け回り泥まみれになって遊んだものだ。
それなりに成長した後もそれほどまでに雨に嫌悪感などを抱いた覚えはなかった。

だが、こう何日も雨が降り続いてくれた日には気分も憂鬱になり体調にも影響してくるだろう。

(ほら、カビだって発生しやすくなるし・・。カビ菌って体に悪影響を及ばしたりするから気を付けないと・・・)

「って、違うだろう!!」

逸れてしまった考えを振り払うかの様にイルカは頭を大きく振った。
目下の問題、雨による悩みのタネは・・・

(これ、どーすっかなぁ・・)

眉間に皺を寄せて手にした洗濯物のパンツを見つめる。
そして、足下の方にも目をやればそこにもバケツいっぱいになった大量の洗濯物が山と積まれていた。
そう、雨が降り続いてる所為で洗濯物が溜まるいっぽうなのだ。
おまけに今はカカシと同居中。
洗濯物も2人分に増えているのでその量は半端ではない。

(部屋に干すのも鬱陶しいしな)

イルカの家は狭い。
一人ならともかく大の大人二人で住むには確実にスペースが不足しているのだ。
そんな中に洗濯物を干したとしたら普段の生活自体も困難な事になるだろう。
少しずつ洗濯していけばそんな事も無いだろうが、洗濯は一気にしてしまいたい。
大体少ずつ洗濯するなんて水道代が勿体ないではないか。

「はぁ・・」

答えの無い悩みの堂々巡りにイルカは再び大きなため息をついた。

「俺のパンツ握りしめて、ため息なんかついて。もしかして、イルカ先生・・」

――シて欲しいの?

「うわぁ!!!!」

突如、背後から耳に吹き込まれた言葉にイルカは飛び上がった。

「カッ・・・カカシ先生!?」

そこにはいつの間に現れたのかカカシ立っており、片手を上げて「はーい、ただいま」などと言いながらにこにこととても機嫌よさげな笑顔見せていた。

「い・・いつの間に帰って来てたんですかっ!?」

「んー、さっきですよ。ちゃんとただいまって言って入って来たのに気づかないなんて、イルカ先生忍者失格ですよ」

「う゛・・。お・・お帰りなさい」

「はい、ただいま」

本人曰く三度目のただいまを言いながらカカシは怯むイルカにずいっと近寄る。
反射的にイルカは後ずさるものの、狭い部屋の中、その背はすぐに壁に突き当たってしまった。

「で・・」

美形だと認めざるを得ない顔の大半を隠していた口布を下ろしながらカカシはさらにイルカに迫ってきた。
その笑顔がなぜだか無性にムカつく。

「何悩んでたの?そんなに悩まなくても言ってくれれば、イルカ先生は満足出来るまでシてあげますよ〜」

 バシッ!!

「ったぁ〜・・」

「何言ってるんですか!?そんな事で悩んでなんかいませんよ!!」

「何もそんなもので叩かなくても・・」

涙目になり頭を抱えるカカシ。
顔を赤くして怒鳴るイルカはその手に握っていたカカシのパンツでカカシの頭を張り倒したのだ。
ぐーで殴らなかっただけマシだと思って欲しい。

「雨続きで洗濯物が溜まって困ってるんですよ」

相変わらず山盛りの洗濯物に目をやりながらイルカはぼやいた。
そんな事をしたって状況が改善する訳でもないが、だからと言ってほっとけもしない。
何にしたってイルカは不器用なのだ。
カカシの方はと言えば、きょとんとした表情で洗濯物とイルカとを交互に見ていた。

「別にいいんじゃないですか?そんなに困る事でも無いでしょう」

「困りますよ!」

無責任な発言をするカカシにイルカはさらに怒り出す。

「洗濯できないから着替えも無くなってきて困ってるんですよ。シーツの替えだってもう無いし。だいたいあなたがいつも・・・」

そう言いかけてイルカは口をつぐんだ。
おねしょをするような年でも無いので、シーツなんてそうそう汚れたりはしない。
汚れる理由は・・・
顔を真っ赤にしてうつむくイルカに、カカシはにやりとしながら問いかける。

「いつも・・何?イルカ先生あっかくなって何思い出したの?」

にやにやしながら詰め寄って来るカカシに、「何でも無いです!」と言いながら再び手を振り上げようとしたイルカはふいにある事に気が付いた。

「カカシ先生。何でそんなに濡れてるんですか?」

よく見ればカカシは全身びしょ濡れだ。
髪毛の先からは雫がポタポタと滴り落ちている。
慌てて玄関先の方まで見に行ってみると、そこから部屋まで点々と小さな水溜まりが出来ていた。

「ああっ!床までこんなに・・!」

「そりゃあ、雨でしたから」

現状に嘆いていると、後ろから付いてきたカカシはがりがりと頭を掻きながらそう言ってくる。
その悪びれる様子の無さにイルカはキッと振り返り、ずかずかとカカシに詰め寄って言い放った。

「雨だったら傘をさせばいいでしょう!だいたい、そんなにびしょ濡れになる程外で何をやってたんですか!」

「いや・・任務で・・・」

「言い訳はしない!部屋もこんなに汚して。誰が掃除すると思ってるんですか!服だって今洗濯も出来ないってのに・・」

恐い顔をしてブツブツと言い募って来るイルカにカカシは「はぁ・・」と気の抜けた返事を返すしか無かった。
床の掃除はきっと自分がやる羽目になるんだなと云う事だけは想像がつく。
そう思っていると、イルカがハッと何かに気が付いたようにカカシのジャケットに手を掛けてきた。

「っと、その前に。早くその服脱いで下さい!」

「え?イルカ先生ってばだいた〜ん」

「何馬鹿な事言ってるんですか!そのままだと風邪引くでしょう。早く風呂に入って温まってください」

「イルカ先生・・そんなに俺の事心配してくれるなんて・・」

普段つれない態度を取るイルカの意外な行動に、じーんと胸が熱くなってくる。
何だかんだ言いながらイルカの方だってカカシの事を好いてくれているのだと思って幸せな気分に包まれるカカシ。
だが、イルカは服をはぎ取る手を止めずにきっぱりと言い放った。

「何言ってるんですか。最近は医療費だって馬鹿にならないんですよ。風邪薬なんていくらすると思ってるんですか」

「あ・・。さいですか・・」

イルカはへにょりとへこむカカシを風呂場に押し込み、水が滴るカカシの服は洗濯機に突っ込む。
こんだけ濡れた服を放っておくと服自体にカビがきてしまう。
仕方なしに他の洗濯物も一緒に突っ込んでイルカは理由の無い確信を抱く。

(こんだけ雨続きなんだ。明日こそは絶対晴れるさ!)

そう気合いを入れて洗濯機のスイッチを入れたのだった。


翌日、相変わらずシトシトと降り注ぐ雨にイルカはがっくりと項垂れた。
そのイルカに言ったカカシの一言により始まった素っ裸の二人による口論は、昼近くまで続いていたという。
その一言がどういうものだったかは謎に包まれたまま・・



ご想像にお任せします [2006.4.6]