側に居てもいいですか?

はじまりはそんな感じ・・・


++ 同居忍 2 ++



―さて・・


服を着込んで痛む腰をさすりながらイルカは台所に立って腕組みをする。


成り行きで一緒に暮らすという了承はしてみたものの実感はなかなか沸いてはこない。
それはそうだろう。
自分はしがない中忍で相手はエリート上忍。
まず、よくは知らないが給料から違うだろうから、必然的に生活も違ってくるだろう。
高給取りの上忍・・しかも以前は暗部にも所属していたこの人の生活は、こんなぼろアパートに住む自分などは足下に及ばないほどの裕福な生活をしているはずだ。
普段危険な任務に駆り出される事の多い上忍にはそれなりの報酬、すなわち給料が入っているのだから。
そんなカカシが自分と暮らしたいなどと酔狂な事を言い出すのは単なる気の迷いか、それともこの質素な生活が物珍しいのか・・・

何となくそんな事に考えが及んでイルカはムッとする。
勝手な考えに怒りをぶつけられる方のカカシにとっては理不尽この上ない事だ。
まあ、まだそう思う段階で事が収まっているので問題は無いだろう。
考えを巡らせるのは自由だ。

どっちにしろ2、3日もすれば考えも変わるだろう。
単なる気の迷い。
きっと寝ぼけていたんだろう。
早ければ夕方には無かった事にして下さいと言うことになるかもしれない。

そう結論づけてイルカは目下の問題の方に頭を切り換えた。

すなわち朝食。

いつもならば一人分を適当に作って簡単に済ませてしまっている。
だが、カカシが居るからにはそうも行かない。
彼は一応、客・・・なのだから。


「さーて、なにを作ろうか・・?」

と、台所をぐるりと見渡してみる。
カカシに何が食べたいか聞きたいところだが、幸せそうな顔で2度寝に入っているカカシを起こしてまで聞くのは忍びない。
台所からも目に入る寝室を覗き見ると丁度寝返りでもうったのかカカシがもぞりと動いた。
その光景にくすりと笑みを浮かべてから、何でもいいかとイルカは腕まくりをして朝食作りに取りかかった。





「カカシ先生!カカシ先生!起きてください。朝飯が出来ましたよ」

そう声を掛けながら少し強めに丸まった布団を揺さぶる。
イルカはさっきからずっとそうやってカカシを起こそうと奮闘している。
振り返った先の食卓の上には並べられた朝食から温かそうな湯気が上っている。
早くしないとせっかくの食事が冷めてしまう。
それ以前にこのままの状態が続くとアカデミーに遅刻してしまうではないか。
そちらの方が朝飯を食いっぱぐれるよりもよっぽど大変だ。

イルカはしば思案した後、おもいっきり足を振り上げた。

 どすん!!

小気味よい音と共に布団の塊がベッドの上から床へと転がり落ちた。

「いったあ〜・・」

間の抜けたそんな声と共に布団がもそもそと動き出す。
それを見届けたイルカは布団ごとカカシを蹴り飛ばした足を下ろすとにっこりとした笑顔を見せた。

「カカシ先生おはようございます。さ、早く朝飯を食べないと任務に遅刻してしまいますよ」

「ふえ? はあ・・・」

まだ寝ぼけているのか曖昧な返事と共にもそもそと布団から這いだしたカカシがぺたぺたと食卓に向かう。
その後から真っ赤な顔をしたイルカの叫びが響いた。

「さ、先に服!着て下さい・・!!」

「え? ああ、服・・ね。どこ置いたかなあ・・・。あ、イルカ先生おはようございますー」

素っ裸の恥など何処吹く風、へらっとした笑顔を向けるカカシに対してイルカは目のやり場に困り顔を真っ赤にして俯く。

(さっき一回起きてただろうが・・。二度寝の後もおはようなのか?)

そんな疑問を頭に巡らせながら・・・





「イタダキマス!」

ご丁寧に両手を合わせそう言ったカカシはまずサンマの塩焼きに手を伸ばした。
上忍もこんな子供っぽいことをするんだなと、物珍しそうにカカシをちらちら眺めながらイルカは味噌汁をずずっと啜った。

今日の朝食は丁度2尾あったサンマに塩を振りかけて塩焼きにしたものと、豆腐やワカメを突っ込んだだけの味噌汁。
そしてご飯と漬け物という簡単なものだ。
それを美味しいですね、と幸せそうに頬張るカカシ。
だが、イルカには気になる事が一つ気あった。

「味噌汁・・。お嫌いですか?」

そう、カカシは味噌汁にだけ口を付けて無かったのだ。

「いいえ。大好きですよー」

「じゃあ・・」

何で?と聞こうとしたとき、カカシは味噌汁を入れたお椀を手にとって困ったような表情を見せた。

「いやね、どうも熱いモノが苦手でして・・」

そう言って味噌汁を啜ったかと思うとアチッっと言った後、子供がするようにふーふーと息を吹きかけながら少しずつ味噌汁を啜っていった。
イルカはと言えばそんな子供みたいなカカシの姿をぽかんと見つめていた。

そうか、猫舌なのか・・。
じゃあ夕飯に鍋とか止めておいた方がいいかな?

そんな事を考えながらの朝食の時間はゆっくりと流れて行き、二人仲良く遅刻する羽目となった・・・




茄子の味噌汁に辿り着くのはもう少し先・・ [2004.?.?]