側に居てもいいですか?

はじまりはそんな感じ・・・


++ 同居忍 1 ++



何で?


イルカは首を傾げる。


何で?

何で?

何で??

今はただただその言葉しか出てこない。
頭の中は真っ白になって何も考えられない状態だ。
いや、現実逃避をしたいだけなのか。

しばらくそんな感じでなにも考えないようにはしていたが、いつまでもそんな事をやっていても始まらない。
イルカは恐る恐る言葉を発した・・

「ええっと・・・カカシ、先生?」

「はい?」

なるべくそちらは見ないようにしているが、そののんびりとした口調からその人物がゆったりと寝そべっている姿が容易に想像できる。
きっと人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべているのだろう。
そんな想像をしてしまう自分に大きく溜息を付いた。

「えと、何で・・・」




―あなたが此処に居るんですか?




ちょっとした疑問。


確か・・・と昨日の記憶を掘り起こす。

昨夜はいろいろと残業が積み重なって帰りが遅くなってしまったのだ。
夜道を夕飯を一楽に行こうか、家で適当に済ますか考えながら歩いていると偶然カカシに会った。
「奇遇ですね」などとありきたりな挨拶などを交わしただろうか。
ナルトの話も出たはずだ。
だが、毎日のように気にしている事なのに話の内容を何も思い出せない自分が薄情な感じがして泣けてくる・・
その後夕食はどうするのかと問われ、その辺で適当に済ましますつもりだと答えたはずだ。
じゃあ、一緒にどうですかと諸々の成り行きでその辺の飲み屋で共に軽く食事をとった。
その時酒を煽りすぎたのだろうか?
・・その後の記憶が曖昧ではっきりと思い出せない。

確か、お茶でも飲んでいきますかとカカシを誘った様な気がする。

今考えるとその時からしておかしいだろう。
何故この男を誘おうなどと思ったのだろうか。
酒の力とは恐ろしいものだ。

そんな感じで自分の家にカカシを上げた。
カカシはきょろきょろと家の中を眺め回し、こざっぱりとした綺麗な部屋ですねと言った。
自分は上機嫌でカカシをもてなそうと色々と飲み物やつまみを出していた。
その後は他愛もない話に花を咲かせていたはず・・


そして気が付いたらベッドに寝ていた。
寝ているだけなら普通のことで気に止めるべき事柄では無い。
だが、隣にはカカシが裸で寝ていたというおまけ付き。


さらに言えば自分も全裸だった・・・
妙に腰も痛い。


慌てふためきその姿のまま派手にベッドから転げ落ち、その音に目を覚ましたカカシに情けない格好を晒すこととなった。
自己嫌悪に陥る・・・


少しして落ち着きを取り戻し、冷静に昨夜のことを思い出そうと頭を捻るがどうしてもカカシが隣で寝ていた訳は思い出せない。
朝日で爽やかに照らし出されるベッドの上。
正座をして考え込んでいるイルカの前で、胡座を組んでいるカカシに恐る恐るその事を問うてみる事にしたのだ。

「何で・・あなたが此処に居るんですか?」

そんな問いにカカシは頭をばりばりと掻いた。
そして、その口から出てくる答えにイルカは唖然とする羽目になる。

「何でって…。イルカ先生が泊まっていけって言ったんですよ。覚えてないんですか? もう遅いから泊まっていけって引き留められたんですよ」

「は?」

「俺はイルカ先生と一緒に居たら襲っちゃうかもしれないからダメだって言ったのに・・」

「・・・・・」

「そしたらかまわないから泊まっていけってそりゃもうシツコク・・・イルカ先生って案外強引なんだなぁって思いましたもん」

「はぁ??」

かまわないって…なんだそれ?
そんなこと俺が言ったのか!? 
何て事言ってくれたんだ!数時間前の俺〜〜〜!!!

「えっと・・それでカカシ先生は・・・どう?」

これ以上は聞かない方がいいと分かっているのにどうしても気になってしまう。
俯きかげんで恐る恐る続きをねだる。

「そりゃあ据え膳喰わぬは男の恥ですからね。ほんのり赤くなってる可愛いイルカ先生をありがたく頂きましたが・・・」

―いけませんでした?

そう言って小首を傾げて来るカカシに不覚にも可愛いと思ってしまって、すぐさま首をぶんぶんと振って訂正を入れる。


い、いけませんでした?
いけませんでしただって〜〜〜〜!!??
ダメだろう!!
大体据えられたからって、普通男を喰うか!?
だいたい、据えたつもりも無いし!!


そんな自問自答を繰り返すイルカにずいっとカカシが迫ってきた。
いきなり目の前にカカシの顔が現れた事により思わず身を引く。
それを許さぬようにカカシはイルカの腕を掴み、グイッと側に引き寄せた。

「うわっ」

バランスを崩して驚くイルカの耳元にカカシは小さく囁きかけた。

「ね、これからも此処にいていい?」

「は?」

何を突然・・・

「イルカ先生の側にいてもいい?」

いきなりそんなことを聞いてくる。

「じょ・・」

冗談じゃない!!

そう言おうとしたが目の前にあるカカシの瞳が今にも捨てられそうな子犬の様な目をしていて言い出せなかった。

何故そんな顔をする?
ズルイじゃないか…
そんな顔をされたら……

黙り込んでしまったイルカの顔をカカシが不安そうに覗き込む。

「・・ダメ?」

そう小さく聞いてくる男にイルカの口が僅かに動き出した。

「・・・・ないです・・」

「え?」

「あーもー、ダメじゃないです!恥ずかしいんだから何度も言わせないで下さい!」

真っ赤になって大声でそう答えると、カカシは嬉しそうにやったー!と言って抱きついてきた。
イルカは早まったかと後悔したが、また別にいいかと言う考えも頭の片隅にあった。


そんなカタチで二人の同棲…
いやいや、同居生活は始まった。




その前に服を着ましょうね、お二人さん [2004.07.31]