――カラ カラ カラ カラ カラ カラ カラ ・・・ 風と共に、数多くの風車の回る音がさみしく木霊する・・ ――カラ カラ カラ カラ カラ カラ カラ ・・・ 風の声 木の葉隠れの里には、慰霊碑とは別にそれと同じ様な役割を果たす場所があった。 それは里の外れにあり、そこには数え切れぬ程の風車が風に吹かれ静かに回っている。 それはそこら中の木の枝という枝に・・ それでも足りなくて地面に刺してある物さえある。 そこはかつては森だった場所だ。 森だったというのはそこはもう森とは言えなくなってしまっているからだ。 生い茂っていただろう木々は今はなく、がらんとした空間が広がっている。 森だった頃の木もそれなりにあるが、多くの木々が薙ぎ倒されまた無惨なまでにへし折られた姿を晒している。 巨大な力によって・・・ ――九尾の厄災 それは突如訪れ、木の葉の里に恐怖と絶望をもたらした。 四代目火影の身を犠牲にした術により、九尾は封じられた。 だが数多くの忍と里の一般人、そして木の葉を支えるべき四代目火影の命を引き替えにして・・・ そして、いつの頃からか此処を訪れる人々によって、風車が手向けられはじめた。 今では、此処にある風車は犠牲となった者達と同じ数だけ存在する。 その者達のかわりに・・・ ――カラ カラ カラ カラ カラ カラ カラ ・・・ いつもと変わらず回り続ける風車の群れの中に、一人の少年が訪れていた。 以前はこの場所にも大勢の人々が訪れていた。 しかし、あの九尾事件からすでに1年が過ぎ去ろうとしていた。 忍びならば慰霊碑に名が刻まれ、一般人には墓が築かれた。 そうなった今では、辛い想い出を引きずるこの地に人が訪れる事自体が珍しくなってきている。 少年は鼻の頭に横一文字の傷があり、黒い髪を頭の上で一括りにしている。 髪と同じ黒い瞳は少し潤んでおり、口は何かに耐えるように真一文字にひき結ばれていた。 その少年、―イルカは、数多くの風車をのぞき込んで行く。 そして、壊れて回らなくなっている風車を見付けては、一つ一つ丁寧に直していっていた。 ――カラ カラ カラ カラ カラ カラ カラ ・・・ しばらくはそうやって風車の群れの中を巡っていた。 そしてあらかた直し終えたと思ったとき、イルカは目的を持ってある場所に向かった。 そこは他の風車とは少し離れた場所だった。 そこに付くと、静かに足を止める。 「・・・父ちゃん、・・・母ちゃん・・」 そう呟くイルカの足下には、二つの風車が寄り添うように刺してあった。 イルカはその場にしゃがみ込む・・ 「・・・また、来たよ」 寂しげな表情をしながら静かに語りかけるイルカは、この二つの風車を亡くなった両親と思うようにしている。 ここにある風車は、死者の追悼のために手向けられているが、それが個々を表している訳では無い。 この二つの風車にも、イルカの両親の名が刻まれているということもない。 しかし、イルカはこれを見付けた時、両親の為に手向けられた物だと思った。 まだ子供で力のないイルカは足手まといにならぬよう、両親と共にいた前線より非難させられた。 なのでイルカは両親の最後を知らない。 人づてに聞きはするが、そもそも前線に居たであろう忍びの殆どが帰らぬ人となったので真相を知るものは居ないに等しいだろう。 そんなわずかな情報から最後に二人が倒れていた大まかな場所だけは知る事が出来た。 それがこの場所だ。 両親が最後をむかえたという場所に寄り添う二つの風車。 イルカにはこの二つがもう命を回す事の出来なくなった両親の様に思えて仕方なかった。 それからは、時間の許すときはこの場所を訪れ、必ずこの二つの風車に語りかけることにしていた。 「・・・父ちゃんと、母ちゃんは、里の英雄なのにね」 風車を見詰めながら、膝を抱えてイルカはぽそりぽそりと呟く。 「・・ボクは・・・英雄の・・子供なのに」 じわりと目尻が熱くなった。 自然とこぼれてくる涙を、袖口でごしごしと拭き取る。 しかし、涙は止まってくれない。 「・・・今日、先生に・・アカデミーに、戻れって・・・言われちゃったんだ」 途切れ途切れに言葉が紡がれる。 両親が死んでしまってからというもの、イルカは任務に集中出来なくなっていた。 下忍として、Dランク任務もまともにこなせないのだ。 何かと失敗をしてしまい、スリーマンセルの仲間達に迷惑を掛けることになってしまっていた。 これがもっとランクが上の任務だったなら、とっくに命を落としていることだろう。 そしてとうとう、見かねた担当上忍から『アカデミーで学び直してこい』と、言われてしまったのだ。 アカデミーを卒業し、せっかく下忍に選ばれたというのにそれは屈辱的な事だった。 そして、その事に納得するしか出来なかった自分にも・・ ―・・うっ・・・ううっ・・ とうとうイルカは、膝を抱えたまま泣き出してしまった。 こんな時慰めてくれたり、何かアドバイスをしてくれる両親はもういない。 二つの風車は、何も語らず静かに回り続けるだけだった・・ ――カラ カラ カラ カラ カラ カラ カラ ・・・ ・・・い・・・ょう・・ぶ・・・ ――カラ カラ カラ・・・ 『・・・大丈夫だよ・・お前なら・・』 突然、後ろから少しくもぐった様な声が降ってきた。 「え!?」 イルカはすぐさま後ろを振り返ってみた。 しかし、そこには誰の姿もなかった…… 「・・・・・?」 辺りをきょろきょろと見渡してみても誰の気配も感じない。 気のせいだったのだろうか。 (・・でも・・・) 気のせいでもいい・・ もしかしたら、父ちゃんと母ちゃんだったのかもしれない・・ (・・・大丈夫・・だって) イルカは涙を拭う。 目を赤く腫らした顔。 そこには、うっすらとではあるが笑みがこぼれていた。 サアァァァァ 吹く風が冷たくなってきた・・ 辺りはすっかり薄暗くなってきている。 少しだが気の軽くなった、イルカは足下の風車に向き直る。 「・・ちょっと情けなかったかな?心配させてごめん。・・じゃ、父ちゃん。母ちゃん。また来るね・・」 小さくそう語りかけて、イルカは出迎えてくれる者の居ない家へと足を向けた。 ――カラ カラ カラ カラ カラ カラ カラ ・・・ 足早に家路に着くイルカの頭上に、一つの黒い影があった。 大きめの木の枝に腰掛けている、若干小さな影は、黒い服に動物の面を付けていた。 ・・・暗部である。 その暗部は被っていた面を外すと、ジッと足下のイルカを見下ろした。 面をとったその顔は、まだ幼さの残る面もちだった。 左右色の違う瞳を持ち、縦に傷のある左目は燃えるように赤い。 風になびく髪は、見事な銀髪だ。 その彼もまた、未だ此処を訪れる数少ない人間だった。 そして、彼は知っていた・・ もうとっくに朽ち果てていてもおかしくないこの風車の群れを、慈しむ者の存在を・・・ 「・・・大丈夫だよ・・お前ならさ」 ザアアァァァァ いっそう強い風が吹いた。 ――カラララララララララ・・・・ 勢いよく風車が回りだす。 その中を、走って帰るイルカを見下ろしながら・・ 暗部の少年―カカシは呟いた。 ―――これだけの、風車を回し続けられる奴なんだからさ・・・ [終]
2003.05.02
誰も居ない所で、風車だけが回っていたら ちょっと寂しい感じがしますよねぇ… てか、恐い?(苦笑) 読んでくださってありがとうございました。 |