感謝の気持ちv ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 「ねえ、イルカ先生」 「はい?」 「これ、どうしたんですか?」 夕食後、洗い物をしていたイルカは、そう問われてカカシの方を振り返った。 「ああ、それは・・・」 訊ねてきたカカシの目の前にはコップに生けられた一輪の赤いカーネーションがあった。 それをカカシはくるくると弄っていた。 「・・貰ったんですよ」 「誰に?」 曖昧に答えるイルカに、カカシはさらに聞いてくる。 こういう事にカカシはうるさい。 何かを貰ったり借りたり・・、とにかくイルカの持ち物でない物があると、しつこくその目的や誰に貰ったものかを聞いてくる。 執着心からの嫉妬だと思えば嬉しくもあるが、こう毎回だと鬱陶しくもなってくる。 しばらく考え込んでいたイルカは、観念して口を開いた。 「・・・ナルトに、です」 プッッ!! そう言ったとたん、カカシは腹を抱えて笑い出した。 「・・・カカシ先生、いったい何なんですか」 眉を寄せてイルカが問う。 せっかくナルトから貰った花。 そんな風に笑われる覚えはない。 ・・・たぶん・・ カカシはひとしきり笑った後、目尻の涙を拭きながら楽しそうに言ってくる。 「や〜これ、もしかしなくても、母の日のプレゼントでしょ?」 「うっ・・」 イルカは返事に詰まってしまう。 そうなのだ・・・ 今日の夕方、任務帰りのナルトに会った時・・ 『イルカ先生〜!!』 『おー、ナルト。もう任務は終わったのか?』 『うん、らくしょーだってばよ! はい、先生! これあげるってばよ!』 『ん? 何だこれ?』 そう言って、ナルトが差し出した物は、一輪の赤いカーネーションだった。 『カーネーションだってばよ! イルカ先生知らないのか?』 『いや、知ってるが・・・何で、俺に?』 『今日はお世話になってる人にカーネーションをあげる日だってばよ!』 『は?』 確かに今日は母の日。 日頃世話になっている母親に感謝する日だ。 しかしそれが何故、自分に・・・? 聞けば、任務の帰りにサクラがカーネーションを買っていたのだそうだ。 『そしたらさ、お世話になってる人にカーネーション送る日だからってサクラちゃんが・・』 (いや、ナルト。 今日は母の日だから・・) 『だったらオレってば、あげる人ってイルカ先生しか思いつかなかったんだってばよ』 母親の居ないナルトは九尾の封印により幼い頃から母親の変わりとなる存在が居なかった。 皆がナルトを九尾としてしか見ず、母の居ない寂しい子供だとは認識しては貰えなかったのだ。 そんなナルトに母というそれにもっとも近い存在はイルカしか居なかった。 にこにこして言うナルトに、イルカは苦笑いを浮かべるしかなかった。 『だから、はいこれ。イルカ先生に! いつもありがとうだってばよ!』 『・・はは、ありがとな。ナルト』 そう言って、イルカは複雑な気持ちを胸にカーネーションを受け取ったのだった・・・ 「それで、このカーネーション、ですか」 カーネーションを弄りながらカカシが言う。 まだ、笑い足りないのか顔はにやけたままだ。 「まあ、イルカ先生ってお母さんみたいですもんねv」 「正直あまり嬉しくはないですよ・・」 感謝されるのはいいのだ・・ が、やはり男として母親の・・女性の代わりと言うのはちょっと気が引ける。 「いや〜、でも、お母さんでいいんじゃないですか?」 「はぁ?」 カカシの言っている意味が解らずイルカは眉を寄せる。 「だって、ナルトを心配してる時のイルカ先生って、子供を心配するお母さんみたいだし・・」 「そうですか?」 「それに、何かっていうとお母さんみたいな事を言ってくるでしょう?」 「・・・そう、ですか?」 「ほら、遅刻はダメだとか、嘘を付くなとか・・・」 「そりゃ、言うでしょう? 普通」 不審顔のイルカを余所に、カカシは数えるように指を折りながらさらに続ける。 「朝は早く起きろとか、寝る前には歯を磨けとか、本を近くで読むと目が悪くなるとか・・」 (それも、世間の常識のような・・・) 「あと、夜の営みは翌日が休みの日だけだとか・・」 バンッッ!! イルカは思わず机に突っ伏した。 「な、な、な、な・・・」 「はい?」 「何言ってんですか!!」 首を傾げるカカシに、イルカは怒鳴りつける。 「それのどこがお母さんみたいな事なんですか!!」 顔を真っ赤にして言うイルカに、カカシはどこか悪びれた様子もなく言ってくる。 「違うんですか?」 「ぜ〜ったいっ、違いますっ!!」 はーっ! はーっ! はーっ! 息を荒げておもいっきり否定する。 だいたいお母さんと言うのは親子関係のお母さんであって、夜の〜・・・はどちらかと言えば夫婦だろう。 いや、そもそも何でそんな事を自分が言わなければならないんだ。 そんなふうに、自問自答しているイルカ。 だが、そんなイルカを余所に、カカシは思いついた様にポン!と手を打った。 「あ〜、そう言えば俺もイルカ先生にお世話になってるからお礼をしないと」 「・・・別にいいですよ」 (と、言うかいらないし・・・) 疲れ切った様にイルカは言う。 しかし、カカシはそれじゃダメだと言ってきた。 「でも、もう花屋も閉まってますし・・・ただ、カーネーションを贈るだけってのも、ねえ〜」 そんな事を言ってくるカカシに、イルカは何となくイヤな予感がしてきた・・ 肉食獣に狙われた小動物の感じとでもいうか、頭の中で警報が鳴り響く。 早く逃げろ!と・・ しかしそれを許すカカシではないし、イルカに逃げると言う事が出来るわけがない。 「と、言うわけで俺のお礼は、イルカ先生をお慰みすると言うことで・・v」 「は!?」 「だから、イルカ先生を気持ちよ〜くしてあげるんですv」 (結局それかよっ!!) そう思ったと同時に、イルカはカカシに抱き上げられていた。 さすが上忍と言うべき早業だ。 慌ててイルカは真っ赤な顔でその腕から抜け出そうと暴れだすが、カカシにとってはどこ吹く風だ。 「ちょっ、離して下さい!! お礼なんていいですから!」 「ナルトが贈ったのに、俺が贈らない訳にはいかないでしょ〜?」 そう言いながら、寝室へと向かう。 じたばたと、もがいてみるが一向に離してもらえない。 「ほ、本当にいいですからっ!」 「そんなに遠慮しなくていいですよ〜♪」 「遠慮してない〜っっ!!」 叫んでみたとしてもそれはすでに叶わぬ事。 「いい加減、諦めなさいってv」 「い・や・だ〜〜っっ!!!!」 その夜は哀れな中忍の叫びのみがむなしく響いた…… [終?]
2003.05.10
あー……なんだろこれ? おかしな話ですね(苦笑) 読んでくださってありがとうございました。 |