目の前にいるモノが信じられなかった・・
 確か今は任務に行っているはず。


「・・・何、やってんですか?」





イルカ先生と忍犬と





 今日もいつもと同じように一日が過ぎていくと思われた。
 アカデミーでは手の掛かる教え子達を追いかけ回し、その後受付所で任務報告書に判を押す。
 そんないつもと変わらない一日が終わる、はずだった・・
 ・・・家に、着く迄は。


「・・何だ? お前。」


 疲れた身体で帰ってきた我が家の玄関の前に、一匹の犬がちょこんと座っていた。
 いや、普通の犬ならさして驚きはしない。
 何しろその犬は、木の葉のマークが付いた額宛を身につけていたのだ。
 ・・・忍犬である。

「・・う〜ん」

 イルカは訝しげな表情で、じっとその忍犬を凝視していた。
 イルカとて普段は忍犬にそんな反応を示したりなどしない。
 ・・・いや・・それよりも

「・・何やってんですか?」

 イルカは試しに問いつめてみる。
 忍犬とはいえ、犬相手にそんなことを聞いている自分は端から見ればおかしな人間に見えるかもしれない。
 忍犬の方はといえば何も答えず、未だ微動だにしなかった。

「何やってるかと聞いてるんです!」

 イルカの語気が荒くなる。


 ―――カカシ先生!!


 そう。
 その忍犬からは鬱陶しいまでに感じ慣れた、上忍のチャクラの気配がしていたのだ。
 間違うはずはない、カカシと出会ってからというもの四六時中感じていた気配・・
 昼間でも、ちゃんと任務に行っているのだろうか?と、疑いたくなるほど側にまとわりついてきていたモノ。
 おまけにその忍犬は左目を隠すように額宛をはすけに掛けているのだ。
 カカシと同じように。

「・・・その、姿は何なんです?」

 カカシ(と、思われる忍犬)は、何も答えない・・・

「カカシ先生!!」

 試しに睨みつけてみるが、相手のカカシ(と、思われる忍犬)は相変わらず微動だにしなかった。
 次第にイルカは苛立ってくる。

「・・・何でそんな姿をしてるか解りませんが、任務でならちゃんと任務に行ってらっしゃい!」

 遠くを指さしながらそう怒鳴ってもみたが、忍犬は変わらずちょこんと座ったままだ。

「あ〜も〜・・もう知りません!! ずっとそこでそうしていればいいでしょう?!」

 イルカは諦めて家の中に入ろうとした時、初めて忍犬が動きをみせた。
 あろう事か、開けた玄関からするりと家の中へと入って行ったのだ。

「あ、ちょっと!!」

 慌ててイルカは後を追い、玄関先で忍犬を取り押さえる。

「何入って来ているんですか!ここはあなたの家じゃ無いでしょう?!」

 その時、あらわになっている忍犬の右目が悲しそうに少し潤んでいるのが見えた。
 それを見たイルカは押し黙ってしまう。

(もしかして、何か訳があるのか?こんな姿にならなきゃいけないような、訳が……)

 イルカは考え込んでしまい、忍犬をじっと見つめる。
 ちなみに、いつもカカシに情に訴えるような手を使われては、後でものすごく後悔する事となる。
 だが、今のイルカにはその事は忘却の彼方のようだ。



「・・とりあえず今日は入れてあげます。そこで待っていて下さい。足を拭くモノ、用意しますから」

 イルカに言われたとおり、忍犬は玄関でイルカがタオルを持ってくるのを待っていた。

(言葉は理解してるよな・・?)

 あまりにも何も反応を示さない忍犬の足を拭いてやる。
 イルカはこの忍犬が本当にカカシなのどうか怪しくなってきている思いを描いていた。

「さあ、もういいですよ」

 全ての足を拭き終わりそう促すと、忍犬は心得たようにとてとてと寝室へと歩いて行く。
 その様子をイルカは苦笑しながら見ていた。
 普段のカカシもそうやって真っ先に寝室へと向かうからだ。

(さてと。・・とりあえずメシでも作るか)

 寝室で寝そべっている忍犬を確認した後、イルカは台所へと向かった。
 カカシ(と、思われる)とのやりとりで外はすっかり暗くなっている。

(カカシ先生も、何か食べるよな?)

 あいも変わらず寝室にいる忍犬を振り返りながらイルカは思案していた。

(あの姿じゃ飯も作れないだろうしな・・)

 夕飯を作る支度をしながら、イルカは考えを巡らしてみる。

 何故カカシは忍犬の姿になっているのだろうか?
 そもそもあの忍犬は、本当にカカシなのだろうか?

 いつものカカシは、それはもう、いくら鬱陶しいと言ってもしつこくまとわりついてくる。
 それに、とりとめもない事を色々話しかけてきてうるさいくらいだ。
 なのにこの忍犬はあまり動きを見せずに、先程から一声も発していない。

(まさか、何処か悪いとか。怪我はしてないようだけど・・・)

 イルカは忍犬の事について考えを巡らせて、食事を作る手もおろそかになっていった。
 すると、足下にはいつの間にか忍犬が居てすりすりとイルカの脚に顔をすり寄せてきた。


 ―――心配しなくても大丈夫ですよ・・イルカ先生。


 そんなカカシの声が聞こえた様な気がして、イルカはうっすらと優しく微笑んだ。

「ちょっと待ってて下さいね。もうすぐ出来ますから。」

 そうイルカが言ったとき、忍犬が前脚でイルカの膝を掻いてきた。
 まるで何かを訴える様に・・

「え? 何です?」

 イルカが膝を折り忍犬に顔を近づけると忍犬が近づいてきて、気付くと忍犬の顔が目の前にあった。

「えぇ?!! …ンむぅッ!!」

 あろう事かイルカは忍犬にキスされてしまった。



     ボフンッッ!!



 派手な音をたてて、もうもうとあたりに煙が巻き起こった。
 イルカは訳が分からず腰の抜けた状態で、その様子をぼーぜんと眺めていた。
 煙が薄れていくとそこには、忍犬と同じく額宛をはすけに掛けたカカシが満面の笑みを浮かべていた。
 ・・いや、何となく身の危険を感じるような笑顔だ。
 ちなみにカカシはこれも忍犬と同じく額宛以外は全く身につけていなかった。
 ようするに・・・・全裸、なのである。

「な、な・・・・?!」

 動揺するイルカを余所にカカシの心底嬉しそうな声が聞こえてきた。

「いや〜vやっぱり悪い魔法を解くにはお姫様のキスですよね〜〜vv」

「ま、魔法??!! ひ、姫って??!!」

「もっちろんっっ! イルカ先生の事ですよ〜v」

「な、誰がっっ!!」

「ほんと、かわいいお姫様がいてよかったな〜vv」

「・・・・・」

 もう何も言うことが出来なくなったイルカに構わず、カカシはさらに話を続けた。

「も〜大変でしたよ!!ナンか変な術にかかっちゃったのはいいんだけど・・」

(・・い、いいのか?)

「何もしゃべれやしないし〜、犬の手じゃ印も切れないんですよねぇ」

(・・・あんたなら印くらい切れそうな気がする)

「かといってこのまま、って訳にもね〜。ほらぁ俺ってエリート上忍でしょう?」

(・・非常に疑わしいが。・・てか自分で言うか)

「誰かに狙われたら大変じゃないですか!んで、こういう時頼れるのってイルカ先生しか思いつかなかったんですよね〜v」

「・・・アスマ、先生とかガイ先生は?」

「はい?」

「アスマ先生やガイ先生です!・・親友なんでしょう?」

「アスマんとこなんかに行ったらそれこそ大笑いされて、放り出されるのがオチですよ!! ガイになんて頼りたくもないですね!」

(・・俺もそうすれば良かったか?)

「いや〜、それにしてもさすがイルカ先生v すぐに俺だと解ってくれてvv やっぱ愛の力ですかねv」

 さも嬉しそうに語るカカシを余所に、イルカは思考の渦へと埋没していった・・


(いったいどんな術にかかったっていうんだ?)
(いや、どんな術にかかったとしても、この人、一応は上忍なんだし術を解除することは出来る筈・・)
(いやいや、もしかして上忍だっていうこと自体が嘘だったなんてことも・・)
(そもそも、この人にこんな術をかけて何のメリットがあるというんだ?)
(だいたい、キスしたら解ける術って何だぁ〜〜っ?!)



 イルカが堂々巡りの考えを巡らせている隙に、カカシはイルカの服の裾をガバッとめくりあげた。

「うわッッ!!何するんですか!!!」

 慌てて服を戻そうと手を伸ばすが、難なくカカシに止められてしまう。

「は、離して下さい!!」

「え〜〜っ!任務のせいでしばらく逢えなかったんですから、ちょっとぐらいスキンシップしてもいいじゃないですか〜!」

「何がしばらくですか!! たかだか一日の任務だったでしょう?!」

 台所に背をあずけ、脚の間には全裸のカカシ。
 そのカカシに両腕を捕まれた格好で言い争う姿に、イルカは気が遠くなりそうな気がした。
 非常に危険な体勢だ。

「とにかく!!もう元に戻ったんですから帰っても大丈夫でしょう?! だったら帰って下さい!!」

「え〜?! こんな格好じゃ帰れませんよ〜!」

「〜〜っそれならっ、普通にしていて下さい!!」

「は〜いv じゃ、お許しが出たということで・・・vv」

「それじゃ普通じゃ無いでしょう〜〜っっ!!!」


 大声で暴れるイルカだが、そんな事はどこ吹く風。
 カカシはさらに事を進めようとする。


     ブチィッ!!!


 とうとうイルカの堪忍袋の緒が大きな音を立てて切れた!!


「出ていけーーーーーーっっ!!!!」




 次の日、イルカの家の玄関の戸に縋り付く銀色の毛並みの忍犬が居たという噂が広まっていた・・





[終われぃッ!!]

2003.04.28

何故カカシ先生が忍犬に戻っているのかは、謎!(汗)
ま、またしても中途半端な……(しかもよく分からないし……)
変な話でごめんなさいです…!!

こんな話を読んでくださった奇特な方、ありがとうございました!