『あ、ほらほら、流れ星!』

 いつになく明るく、はしゃぐ様な声。

『見た見た? カカシ。ちゃんと願い事を言っとかないと・・』

 そいつはそう言って手を合わせた。



 願い事は流れ星が流れてる間にしなきゃいけないんじゃなかったっけ?



 毎年毎年、この時期が来ると思い出されるふざけたような明るい声。
 誰がこの声の主を里を統べる者だと信じるだろうか。
 しかし、どうしてこういつも思い出さないといけないのかだろうか…



 まったく!!







☆ 星に願い届くなら… ☆





『カ〜カ〜シv 今日は何の日だか知ってる?』

 先生――後の四代目火影は満面の笑みを浮かべてそう聞いてくる。

 バカにして。

 いくら自分がそう言う世間のイベント事には疎いといっても、今日が何の日か位は知っている。
 昼間もオビト達が散々その話をしていた。

『七夕・・でしょう?』

『あったりーvねえねえ、カカシは短冊に願い事書いた?』

 そっぽを向きながらぶっきらぼうに応えたと言うのに、先生は益々嬉しそうな顔になっていった。
 常々思うことはどうやったらこの人の鬱陶しい笑顔を消し去ることが出来るのかと言うこと。
 見てるとイライラしてくる。

『・・・書いてませんけど』

 ため息を付きながらそう応えてやる。
 だいたい短冊に書いた位で願いが叶うなら苦労はしない。
 それ以前に願い事なんて無いのだけれど・・

『やっぱり。そうじゃないかと思って・・』

 そう言いながら何やらごそごそと取り出してくる。

 嫌な予感・・

『じゃーん! ほ〜ら、カカシの分』

 そう言って出してきたのは七夕飾りで使う、短冊。
 そんなご大層に言って出す程の物でない、いたって普通の短冊だ。
 それぐらい分かってたのだが、ついいつもの習慣が口に出た。

『何ですか? これ・・』

 別に短冊のことを知らずに聞いた訳では無い。
 こんな物を嬉々として取り出してくる先生の態度の事を聞いたつもりだったのだが・・

『え〜?! カカシは短冊を知らないのぉ?』

 ・・知ってる。

『ううっ。短冊も知らないなんて・・。先生の教育の仕方が悪かったのかなぁ』

 ・・だから知ってるっ!!
 大体、手前で短冊に願いを書いたかと聞かれた時、ちゃんと応対したではないか。

 わざとではなく、本気で嘆くものだからいつもながら対応に困る。
 どうしてこんなヤツが教師をやっていられるのか不思議でしょうがない。

『ハァ・・』

 大きくため息をつく。

『短冊は知ってますよ。でも、俺はいりませんから・・』

 そう言って先生の方を見ると、またため息を付きたくなった。
 目元をうるうるとさせてジッとこちらを見詰めている。

 ・・・嫌になってきた。

『・・要らないって。まさか願い事が無いとか、そんな夢のない事言ってんじゃ無いよねぇ』

 図星である。
 ・・・が・・

『・・・違います』

 とりあえずそう言っておく。

『じゃあ遠慮してるの? そんな事しなくて良いんだよ。ほらほら、まだこんなに沢山あるんだから』

 そう言って目の前に現れた、山のような短冊の束。

『・・・・』

『カカシはどんな願い事書くのかな?』

 目の前には短冊が並べられ、ご丁寧に筆と墨まで用意してくれた。

『・・・・』

『さあ、書いて。書いて。こんだけいっぱいあるんだから、いっぱい願い事が叶うよv』

『・・・・』

『どうしたのカカシ?』

『・・・・』

 ねえ、カカシ〜〜〜〜・・









「あ゛〜〜っっ! 鬱陶しい!!」


「え?!」


 突如大声を上げたカカシに、イルカは思わず手を止めカカシの方を振り返る。

「ど、どうしたんですか? カカシ先生」

「え? あ、あれ?」

 カカシ自身も思わずきょろきょろと辺りを見回し状況把握に努める。


 今日もいつものごとくイルカの家へと潜り込み、イルカの作る夕食をたいらげた。
 その後イルカはアカデミーのテストの採点を始めてしまった。
 仕方ないが大人しくその横でイチャパラの読書と決め込んだのだ。
 ここでイルカの機嫌を損ねれば、後ほどの本当のイチャパラがおじゃんとなってしまうからだ。

 そうこうしている内にいつの間にか眠ってしまった様だ・・

「あ〜〜、何でもありません。ちょっと寝ぼけてしまっただけで・・・」

 カカシはバツが悪そうに髪をばりばり掻いた。
 人前でうたた寝をしてしまうなんて思ってもみなかった。
 ま、それだけイルカ先生の側が安心できると言うことなんだけど・・

「はぁ・・・。で・・?」

「はい?」

「どんな夢を見てたんですか?」

 少し笑顔を浮かべながらイルカが聞いてくる。
 カカシは腕を組み、う〜んと考え込んだ。

「や、大した事無いですよ。昔の事ですから」

 苦笑いを浮かべながらそう答える。
 話しても良いとは思うが、少々バカバカしくもある。
 一応里の英雄として名が残っているのだし、それをわざわざ壊す必要も無いだろう。
 自分としては出来ればあまり思い出したく無い事柄ではある。
 だが、何故かこの時期が来るとふと思い出してしまうのだ。

 するとフッとイルカが笑った。

「でも、楽しい夢だったんでしょう?」

「はい?」

 思わぬイルカの問いに声が裏返る。
 楽しかっただろうか?

「楽しそうな寝顔、してましたから」

「そ、そうなんですか?」

 思わず考え込んでしまう。
 楽しいと言われればそうだったかもしれない。
 当時の自分にはそれを楽しいと感じる余裕が無かっただけで・・
 その後の九尾の災厄を考えると、その時がいかに平和で楽しかったかを感じることが出来る。

 そう言う考えを与えてくれたのは、この人でもあるのだが・・

「はは、楽しかったかもしれませんね。鬱陶しかったのも確かだけど・・」

 そう言って、お互いに笑いあった。

 すると突然イルカが「あっ」と声をあげた。
 そして、慌てたように窓辺へと駆け寄る。

「カカシ先生見ましたか? 今、流れ星が流れたんですよ」

「そうなんですか? 見てなかったです」

 残念だなぁと言いながらカカシもイルカの側へと寄っていった。
 空には満点とまではいかないが、星が綺麗に瞬いていた。
 うっすらと天の川も見える。

「残念でしたね。いつも七夕の頃は雨なんですけど晴れててよかったなぁ。あ、そうだ、カカシ先生」

「はい」

「願い事、流れ星は願い事を叶えてくれますよ。願い事しましょう」

「は?」

 イルカの言葉にあの人の姿がかぶる・・・

「どうしたんですか?」

「・・イルカ先生、同じ様なこと言うんですね」

「? 誰とです?」

「あ、いや・・。でも、流れ星への願い事って消える前にしなきゃいけないんじゃなかったですか?」

 ふとした疑問をぶつけてみる。
 あの人には聞かなかった事だ…

「良いんですよ。願う事に意味があるんですから」

 そう言って手を合わせ、目を閉じた。


「皆が健康で、里が平和でありますように・・」


 カカシは思わずプッと吹き出してしまった。
 イルカらしい願いだ。

「もう、何なんですか」

 イルカは頬をぷうっと膨らましながら拗ねたように言ってくる。
 その可愛らしい表情を見せる顔に近づき、その耳にそっと問いかける。

「その、皆ってのには俺も入ってますか?」

「な、何言ってるんですか!」

 顔を赤く染めながら言ってくるイルカ。
 出来れば俺のことだけ願ってくれれば良かったのに、と付け足すとイルカはさらに赤くなった。

「カカシ先生は願い事をしないんですか」

 そう怒鳴るように言ってくる。
 じゃあ、とカカシも手を合わせゆっくりと目を閉じる。
 しばらくしてその様子を横で見ていたイルカと目を合わせる。

「? 言わないんですか?」

「ふふ、ナイショですv」

 ズルイと非難するイルカの口を塞ぐ。

「・・んっ」

「良いんですよ・・」

 そう言ってさらに口づけを深くしていった・・・













 消えてしまった星に願いが届くならば・・・













 どうか、一時でも永く・・・この人と共に過ごせますように・・









 [終]

2003.07.07


な、何だか軽いぞ、四代目…(汗)
イルカ先生がカカシ先生に短冊に願い事を書かせるってのも
書きたかったんですけど、長くなりそうだから削除
長くなると段々いい加減になって来ちゃうんだよね、私(苦笑)

では、読んで下さいましてありがとうございますv
皆様の願い事がかないますように…